刀使ノ巫女の「剣による会話」

この記事は 刀使ノ巫女 Advent Calendar 2018 13日目の記事です。
本当は13日中に投稿するつもりだったのですが、間に合いませんでした……。
adventar.org

 

唐突なのですが、日付的には一昨日*1、私の手元に刀使ノ巫女の全巻購入特典である特製小冊子と生原画が届きました。
小冊子はまだざっとしか眺めていないのですが、見ていて何だかとても嬉しくて幸せな気持ちになりました。
好きな作品のスタッフ・キャストの方々がその作品をとても大切にされている、愛してらっしゃることが伝わってくる場があるというのは、すごく恵まれたことだと感じます。
まだまだまだまだ終わりたくない、終わらせたくない、という意思の乗ったコメントがたくさんある中で、実際に今、コンテンツが次の展開を見せているという事実に胸が熱くなります。
来年1月からの『みにとじ』、今から楽しみです。

ところで、私のところにはこの原画が届きました。

このシーンを探して本編の戦闘シーンをたくさん見返したから……というわけでもないのですが、今回の記事のテーマとしては刀使ノ巫女の剣術要素を取り上げようと思います。

剣による会話

剣術と言っても、私は各流派の具体的な技や型、理合について語れるほど剣術について詳しいわけではありません。
この記事では、記事タイトルでもある「剣による会話」について考えたいと思います。

アニメ第23話「刹那の果て」で、四段階迅移の世界に追いついた可奈美が言っていました。
打ち合わせた御刀から相手が何を考えているのか伝わってくる。立ち合いは剣を通じた会話なのだと。*2
私が最初に「剣による会話」という見方を知ったのは、アニメ第18話「荒魂の跳梁」の他の方の感想からでした。
第18話で可奈美はタキリヒメと立ち合うことによってお互いのことを知り合います。
人と荒魂、あるいは人と神との間で、口からの言葉だけでは分かり合えない、伝えきれないものが、言語を越えた剣の打ち合いによって伝わっていったということです。
人智を超えた存在と人とを結ぶ存在として、確かに刀使たちは「巫女」なのだと納得のいった話数でした。
そこから暗示されていた「会話」という要素が明示的に肯定されたのが、先述の第23話における可奈美の台詞です。
この台詞に、当時私は「おお、この見方は間違ってなかったんだ!」と興奮した記憶があります。

さて、「剣による会話」という見方を踏まえてアニメ本編を振り返ってみると、実は最初からこの要素が散りばめられていたということに気づかされます。
本記事では、いくつか本編からこの「剣による会話」の視点で捉えることのできるシーンを取り上げ、彼女たちの剣に何が乗っていたのかを考えてみたいと思います。

第1話「切っ先の向く先」

第1話で取り上げたいのは、御前試合本選準々決勝での可奈美と舞衣の試合です。
「剣による会話」と言っておきながら、さっそく剣を交えていないシーンで恐縮なのですが、ここは舞衣の意思がものすごく乗ったシーンだと思っています。

お互いに御刀を構え、可奈美が舞衣をどう崩すか考えを巡らす中、舞衣の取った戦法は居合でした。
ざわつく場内。寿々花さんも「居合なんて!」と声を上げるように、少なくとも相手が刀を既に抜いている状況での居合の選択は、通常は有利にはなり得ないはずです。*3
当然舞衣もそのことは知っているはず。
それでも舞衣が居合を選択したのは、「私は私のやり方で可奈美ちゃんに追いつくんだ!」と言うように、舞衣の可奈美を相手にする上での工夫だと思っています。

円盤第5巻の特典ショートストーリーで、舞衣と可奈美の立ち合いは、舞衣が工夫をし、仮に勝てたとしても今度は次の立ち合いまでに可奈美が対策を用意し、舞衣はそのままでは勝てないのでまた工夫をする……ということの繰り返しだったということが語られています。
強い弱い、有利不利は置いておいて、舞衣の居合は可奈美に勝つために舞衣が用意した工夫の一環なのです。
そして可奈美は可奈美で「相手の妙技や工夫を見ると楽しくなってしまう(公式サイトキャラクター紹介より)」とあるように、舞衣の居合に嬉しくなっている表情が描かれています。*4
それでも今回は、決勝に進んで姫和と戦うためにも敗れるわけにはいきません。
居合に対する可奈美の戦術は、勝ちを第一に目指したものだったように感じます。

第2話「二人の距離」

思ったより第1話が長くなったので、ここからはサクサクいきます。

第2話で取り上げたいのは、荒魂の討伐を終えた姫和と舞衣の斬り合いです。
斬り合う中で、舞衣が姫和に「私はこの一年、可奈美ちゃんの剣を受けてきました。十条さん、あなたの剣は可奈美ちゃんのより真っ直ぐでいなしやすいです!」と言います。*5
これはまさに、舞衣が姫和の剣から「姫和の真っ直ぐな心」を読み取ったということに他なりません。
姫和が悪人ではない(荒魂も討伐していますし)と感じたのが、舞衣が可奈美の言葉を信じ、姫和に可奈美を託して送り出した理由の一つになっているのかもしれませんね。

追記:姫和に斬りかかる舞衣の御刀を払った後、可奈美の御刀の切っ先が舞衣を向かないのも、舞衣と斬り合いたくないという可奈美の心の表れた広義の会話なのかもしれません。

第4話「覚悟の重さ」

もうタイトルにありますね。*6
第4話での会話は、「ここで別れよう」という姫和に付いていくと主張する可奈美に対し、姫和が放った重い一撃です。
この話の後半で可奈美が言うように、姫和の剣には覚悟が乗っているのです。
逆に、斬りかかった姫和は可奈美が防ぐだけなのを見て、「ぬるいな」と言い放ちます。
とじステでは、姫和はこのシーンで「殺意を向けられても防ぐばかりで斬り返すこともできない。それがお前のぬるさだ」みたいなことを言っていた記憶があります。
可奈美が姫和の想いを読み取っただけでなく、姫和も可奈美の覚悟の甘さを読み取ったという意味で、まさにこの一撃は二人の間の会話と言えるのかもしれません。

第15話「怠け者の一分」

一気に話数が飛びました。
第15話での会話は、タギツヒメを追う真希の剣からタギツヒメが焦燥や悲嘆を感じるシーン。
今書いていて気付いたのですが、人と神との剣を通じた会話をしたのは、実はタキリヒメではなくタギツヒメの方が先だったのですね。
第23話でタギツヒメは姫和から、人と一度融合したことで人との違いを思い知り、寂しいのだろうと看破されます。
その意味では、第15話のこのシーンも人という存在に興味を持っているタギツヒメを描いていると言えるのかもしれません。

第16話「牢監の拝謁」

第16話の会話は、可奈美と姫和の稽古シーンです……が、これについては私はあまりよく分かってません。
どこが会話かと言うと、立ち合いの後で姫和が自分の右手を見つめているカットがあると思います。
きっと直前のカットで可奈美の「何か」を読み取ったからだと思うのですが……。

第20話「最後の女神」・第22話「隠世の門」

歩ちゃんですね。
それぞれ、可奈美と歩の「分かるよ、歩ちゃんなら。全部この剣に込めたから」と、沙耶香と歩の「そんな魂のこもってない剣じゃ、何も斬れない!」です。
剣は想いを伝える会話の媒体。
その精神が、可奈美から沙耶香に受け継がれているということでもあります。

番外:第3話「無想の剣」・第5話「山狩りの夜」・第11話「月下の閃き」・第18話「荒魂の跳梁」

第18話は冒頭で取り上げた可奈美とタキリヒメの会話がある話数でもありますが、ここでは逆に「剣による会話」が行われていない話数を挙げてみます。

第3話は、可奈美と沙耶香の「そんな魂のこもってない剣じゃ、何も斬れない!」です。
第1話の御前試合では想いが乗って可奈美をドキドキさせていた沙耶香の剣が、『無念無想』を発動させたことによって可奈美との会話を拒むものになっていたということです。
これは、第18話での歩の剣にも通ずるところがあります。
歩の剣は歩自身が努力して獲得したものではないため、魂が乗っていないのです――というのは放送中に見た他の方の感想の受け売りですが。

第5話は、薫相手に御刀で戦わない夜見です。
生み出した荒魂を薫に差し向けるという戦い方しかしておらず、薫に斬られる前に写シを張るなどはしますが、御刀を交えることはしません。
夜見も全ての話数で御刀を使わないのかというとそうではなく、事実次の第6話ではエレンと御刀「も」使って戦うのですが、その戦い方は荒魂の力を用いた、普通の刀使とは大きく異なるものです。
第11話や第18話でも同様に、夜見はほとんど御刀では戦いません。
ほとんど誰とも会話が行われなかった結果として、作中で夜見の意思を理解した人は唯一最後に高津学長に伝わったのか、というぐらいでした。

番外2:第11話「月下の閃き」

もう一つ触れておきたいのは、剣を通じた「視聴者への」会話です。*7
作中の特定の誰かに届いたというわけではなくとも、視聴者がその剣からそのキャラクターの想いを読み取ったとき、そこには会話があったと言ってもいいのではないかと思っています。

いくつかそういったシーンはあるのですが、ここでは第11話の結芽と薫エレンコンビとの戦いを挙げたいと思います。
第11話が放送された当時、結芽の立ち回りが話題になっていたのを覚えています。
これに関しては剣術監修の神無月さんの解説が詳しかったと思うのですが、薫とエレンのコンビネーションによって一撃を喰らって以降、結芽はうまく立ち回ることによって連携攻撃を喰らうことを防いでいるということだそうです。
具体的には、エレンを挟んで薫の反対側に回り続けることで、薫の大太刀による威力のある一撃を容易に放てないようにしているわけです。
集団戦において一対一に持ち込むのは基本の戦術――という話を読んだ記憶があります。

そして視聴者はその動きから、結芽が真に剣術の天才であることを読み取ります。
ただ剣術に優れているだけではなく、ただの戦闘狂というわけでもなく、冷静な思考と抜群の戦闘勘を持ち合わせている、それが結芽なのだと。
薫とエレンを倒した後、二人を庇うねねに対しても、結芽は御刀を振り下ろしはしますが斬ってはいません。
この動作も、視聴者に対して結芽という少女がどういう子なのかを伝える動作の一つという気がします。

おわりに

ということで各話から「剣による会話」に関するシーンを挙げてみました。

冒頭にも書いたように、この記事を書く前に全巻購入特典の生原画のシーンを探して、各話数の戦闘シーンを見返していました。
特に各キャラクターの構えについて注目して見ていたのですが、その中で、姫和は腰を落とした構えが多く、舞衣は背筋を伸ばし中央に御刀を構えた正眼の構えが多いことを感じました。
これは当時2話が放送された後にツイッターのいわゆる剣術クラスタの方が仰っていたことでもあるのですが、構え一つとっても流派やそのキャラクターの性格が対照的に現れているのは面白く感じます。

剣術は刀使ノ巫女の主要な要素の一つですし、これからも注目して見ていきたいですね。
このアドベントカレンダーの記事も合わせて、改めてそう感じるいい機会になりました。

*1:と書いていたけど、結局昨日中に投稿できなかったので3日前。

*2:正確な台詞は覚えていませんが、だいたいこんな感じだったはず。

*3:諸説あるようです。また、刀使の場合は迅移が使えるため、居合の抜刀動作に伴う初動の遅れを軽減できるという違いもあるのかもしれません。

*4:この辺り、円盤第3巻の特典ショートストーリーで描かれた美奈都さんの癖とも似ていて、母娘だなぁと感じます。

*5:これも正確な台詞ではありませんが、大体こんな感じだったはずです。

*6:追記:第4話においては、薫とエレンが舞草の試験官として姫和と可奈美を見定めようとしたのも会話だと捉えられるのかもしれません。

*7:一方向なので会話と呼ぶのは相応しくないかもしれませんが。