「刀使ノ巫女 湖底楽園」感想
めちゃめちゃ面白いドラマCDでした。前作ドラマCD「名残花蝶」がアニメ本編の総括と未来へのプロローグであるならば、今作はその未来に広がっているものの大きさ、刀使ノ巫女世界の広さを描く作品だったように思います。キーワードとして感じたのは「役割分担」あるいは「適材適所」でしょうか。刀使それぞれが自分に合ったそれぞれの役目を持ってあの世界を生きていること、それによって人と荒魂の新しい共存の形が見えてくること、そしてそれが私たち視聴者に新しい刀使ノ巫女の姿を見せてくれること。そんな情景の見えるドラマCDだったように思います。
役割の分担
今作はそれぞれの刀使が持つ役目が明確に示されながら、お話が進んでいったように思います。まずエレンからして、捜索隊が見つけられなかった荒魂の捜索のために特別な役目を課されています。桐生隊がエレンの捜索隊として派遣される一方、捜索は専門外の薫は登場から大きな荒魂を、沙耶香は小さいが(おそらく個体数の多い)荒魂と戦っています。真庭本部長が薫に説く理屈も「自分の役目を果たせ」というものでした。
逆に言えば、それぞれが担っている役目はそれぞれにしか果たせない専門技能だということです。捜索部隊はそれ相応の技能をもって荒魂の痕跡を追い位置を特定するまでが仕事で、そこから先は薫のような火力持ちの領分です(アニメ15話の延長ですね)。逆に薫には捜索部隊の仕事はできません。ねねの力を借りれば荒魂捜索はできますが、人を探すための技能は持ち合わせていないわけです。また、荒魂の巣の封鎖は一般の刀使たちの部隊でも出来ますが、巣の駆除のためには特別遊撃隊のような高い戦力が必要です。ですが、同時多発した荒魂を封鎖したり、周囲の避難誘導をするためには特別遊撃隊だけでは人数が足りません。どちらも荒魂から人々を守るためには必要というわけです。
真庭本部長と薫の会話からだけでも、荒魂との戦いにおいて刀使それぞれがそれぞれの役目を持っている様子がコンパクトによく伝わってきました。アニメで描かれていた刀使という仕事を補完し、世界の広がりを感じさせるものとして、よく出来た描写だったように思います。
戦闘での適材適所
役割の分担は後半のエレン捜索~化け蟹討伐にも引き継がれます。透覚や明眼の能力を見込まれて助っ人を頼まれる舞衣。親衛隊で夜見さんが担っていた立場の延長とも言えるでしょうか。実際に透覚や明眼による捜索を行うだけでなく、隠世の浅瀬に潜む荒魂の発見にまで至り、戦闘では指揮官として作戦の立案までこなします。沙耶香は無念無想という特殊技能を活かして足止め兼囮役を、薫は最大段階の八幡力を使える技能を活かして止め役、そしてS装備は薫の八幡力をサポートする形で、全てのものがそれぞれの役目を果たして化け蟹を仕留めます。これが例えば薫が足止め役をやろうとしても上手く行かないわけですから、まさに適材適所であったように思います。
しかしこう描写されてみるとS装備はすごいですね。燃料を使い果たして自力では八幡力が使えなくなった薫が、S装備の補助があれば普通に八幡力が使えてしまうと……。琉球剣風録では珠鋼搭載型のすごさというのが描かれていましたが、それとは数段スペックの落ちる現在運用されているS装備でもそこまでできてしまうのですね。アニメ本編放送時は一部では「クソダサアーマー」とも揶揄されていたS装備ですが(今この文書くためにクソダサアーマーで検索したら刀使ノ巫女に関するページがずらっと並んで苦笑しました)、琉球剣風録と本作で“手分け”してS装備の価値についてはだいぶ印象が変わってきたように思いますね。
ともあれ、誰一人欠けても成り立たない戦闘で、さらにS装備の持つ意味までしっかりと示してくれるという、「そうそう、これが見たかったんだよ」と感じる理想的な戦闘シーンでした。個人的に、公式で見せてほしい荒魂との戦闘描写として完璧なものが出てきたように思います。非常に満足度の高い一戦でした。
広がる世界
ねねも隠世の浅瀬に潜れるという技能を活かして自分の役目を果たす中で、助け出されたエレンは夢を語るという形で「刀使ノ巫女」という作品への役目を果たします。荒魂ランドとは、言葉だけ見るとなかなか物騒な夢ですが……。湖底に育まれた楽園はヌシがいなくなったことでやがて消える運命にあるのでしょうが、それを見た刀使たちに荒魂と人間の共存の形を想像させます。単独行動をしていたからこそエレンは楽園に連れ去られたのだと、そして楽園を見たのがエレンであったからこそその価値を理解できたのだろうと思うと、調査にエレンを単独で向かわせた真庭本部長の判断は結果的には正しかったのかもとも思いますね。こういうお話を聞くと、これから先の刀使ノ巫女世界でエレンがどう夢を叶えていくのかと楽しみになってしまいます。荒魂と人間の関係を描くお話として、刀使ノ巫女にはまだまだたくさんの未来が広がっているんだと実に感じさせられるドラマCDでした。
単体でも非常に面白く、そしてこのタイミングでの刀使ノ巫女を「繋ぐ」ドラマCDとしても、非常に満足度の高い一作でした。楽しませていただいてありがとうございました。
その他
前節で感想の締めのようなことを言っておきながらまだ続くのですが、今回のドラマCDも前作「名残花蝶」に引き続き、刀使ノ巫女世界の設定をいろいろと開示してくれていて聞いてて大変ワクワクしました。というわけでメモも兼ねて、前節までで拾い損ねたアレやコレやを雑多に上げていこうと思います。設定とは特に関係ない感想も含みます。
- カテゴリー4の荒魂という発言。荒魂にそういう分類があったんですね。知らなんだ……。こういう作品内の専門用語がさらっと自然に口から出てくる感じ、結構好きです。
- 「クソダサ羽織厚化粧」という罵倒。その前にもいろいろ薫が本部長を罵倒してましたが、これは聞いた瞬間悪いなとは思いつつ笑ってしまいました。個人的には真庭本部長の羽織は結構好きだけど、多分これS装備がクソダサアーマーって呼ばれてたのを受けて言わせてますよね……w
- 薫の「特務警備隊は!?」という発言からは、薫が普段、自分も特務警備隊の一員であることを意識していない様子が伝わってきますね。名残花蝶でも真希・寿々花の側から言われていましたが、こっちの側面からも描写された感じでしょうか。
- 本部長としては全ての刀使を平等に扱うという発言に、抑えたトーンで「そうだな、そうあるべきだ」と返す薫さん。薫さんはこういうところでしっかりと本質が見えているのがかっこいいなと思います。だから特別遊撃隊の隊長をさせられてしまうし、ブラック労働を課せられてしまうのだけど……w
- 真庭本部長の「誰が本部長だ――あ、合ってるか」が好き。めちゃ笑いました。しかし薫を手のひらの上で転がす真庭本部長ずるいわ、好き。アニメ本編(特に15話)でも楽しかった薫と真庭本部長のやり取り、今回のドラマCDでも大変笑わせていただきました。小気味いいテンポ感でやり合いながら、大事な話ではするっとシリアストーンにも戻る。さすがの演技だったなぁ。
- ヘリコプター内での会話、良いですねぇ。沙耶香に自分の「好き」という意識が生まれたのは、舞衣じゃなくても成長したんだなぁという気持ちになります。アニメ7話では舞衣のクッキーぐらいしか思い浮かばなかったものが、彼女自身の目や耳で世界を感じるようになったことで世界に好きが広がっていったんですね。Heart of Goldも思い出して少しじわっと来ました。まあ、それを食べ物の好き嫌いの肯定に使っていいのかはどうだろうとも思いますが……w
- 舞衣から見た可奈美という円盤5巻SSの要素の補完というか発展が描かれたのにはハッとしました。またいろいろと舞衣の気持ちについても妄想が捗りますね。
- 舞衣と沙耶香の甘々雰囲気に、薫のツッコミ・ぼやきがよく刺さる。何なら薫さんの方がお姉さんしてるような気もしますね(むしろお父さん?)。言うようになった沙耶香もすごく楽しいし、あー、この会話ずっと聞いてたい……。
- 透覚の表現は今回のドラマCDの最大の特徴の一つでもあったように思います。音声媒体だからこそ、音声部分には最大に拘る。呼吸や鼓動の音まで響いてくるのは臨場感があってすごく良かったです。
- 隠世の浅瀬や明眼で浅瀬が見えるといった円盤4巻SSでの要素を再び取り上げたのは面白いなと思いました。しかしこの浅瀬に潜む能力強すぎません? ずっと潜られたら普通の刀使には手出しができないが……。
- 荒魂さんが金剛身も使ってくることがあるっていうの、結構大きな設定な気がします。実は御刀由来の力はどれも使ってくる可能性があるのか、それとも金剛身だけなのか、それぞれの荒魂によって違うのか、まあ妄想の域は出ないわけですがいろいろ考えちゃいますね。ところで薫が金剛身のタイミングを縫って当てる必要があるってなったときに「やるだけだ」って言うのめちゃくちゃ格好よかった。
- チョコミントブラックライトニング大明神
- エレンの「ヒャッホーーーイ!」、マジで薫さんが前半に言ってた「心配するだけ無駄」をやってますね……。一気に空気感を変える「ヒャッホーーーイ!」ですごかったです。そういえば薫の、誰もがエレンの心配をする必要はないがオレはするっていうの、これも役割分担だなって思いました。
- 役割分担で言うと、舞衣のおっぱい担当も役割分担か……? ひどい役割分担だ……。
- エレンの薫呼びも一部ファンの間では話題になっていた話で、痒いところに手が届くドラマCDだなぁ!と思いました。経緯としてはそうかもしれないけど、今となってはエレンにとっては特別の証になってるのかも、とか考えてニヤニヤしちゃいますね。