刀使ノ巫女アニメ第3話『無想の剣』の話

この記事は 刀使ノ巫女 Advent Calendar 2018 4日目の記事として書かれました。この記事を書き始めた時点で23時半過ぎてるけど、私の12月4日は布団に入るまでなので大丈夫。
※最終的に投稿は12月4日25時半でした。

12月3日→舞台刀使ノ巫女の皐月夜見について - 非論理的ドリル
12月5日→舞台刀使ノ巫女における獅童真希のジャージについて - 非論理的ドリル

 

今日は12月4日、ゲーム「刀使ノ巫女 ~刻みし一閃の燈火~」のキャラクター、七之里呼吹ちゃんの誕生日ですね。
ということでこの記事では、鎌府繋がり(というわけでもないけど)で糸見沙耶香ちゃんが最初に大きくクローズアップされる回である、アニメ第3話『無想の剣』について考えていることを少し書こうと思います。
と、ここまで書いて気付いたけど、書こうとしてることに沙耶香ちゃんは関係してないのであった。

アニメ第3話『無想の剣』

公式サイトストーリー
初放送は2018年1月19日(金)。
前話で「どこにいるの……?」でおなじみ(誇張表現があります)可奈美の親友、舞衣ちゃんを説得し、逃亡を続ける可奈美と姫和が、羽島学長が舞衣のクッキー袋に忍ばせたメモを頼りに元美濃関の刀使である恩田累さんの下に身を寄せる……という流れ。
皆大好き(過度な一般化だけどきっとそんなに間違ってない)鎌府の高津雪那学長が初登場する回でもあります。

上のリンクから公式サイトに飛ぶと場面写が六枚並んでいるのですが、私が取り上げたいのは左から二つ目と三つ目。
累家に身を寄せた可奈美と姫和がお風呂を終え、作中で初めてちゃんと向き合って話し合うシーン……だと私は思っています。

思い付きで記事を書き始めたのでちゃんと確認したわけじゃないのですが、話の内容は大体こんな感じ:
まず姫和が可奈美を「ちょっといいか。訊きたいことがある」と話に誘います。
訊ねるのは、第1話で姫和が御当主、折神紫に襲い掛かった時に、可奈美が折神紫の後ろに見たという荒魂について。
姫和は正座、可奈美は体育座りです。
「うーん」と悩む可奈美に、姫和は身を乗り出して「見たんだろう?」と催促します。
それに合わせるように可奈美は上体を後ろに反らし、「はっきりと見たわけじゃないから」と答える――という流れ。

ここで私が注目したいのは、姫和と可奈美の姿勢です。
姫和は可奈美に距離を詰める。可奈美は姫和から距離を取る。
この動作だけを取り出しても、二人の内面がよく表れていると言えるのではないでしょうか。

姫和はこの時点ではまだ、折神紫への復讐で頭がいっぱいです。
この後に姫和は可奈美に、回復したら御当主様に挑むのかと訊ねられ、肯定しています。
そんな姫和にとっての一番の関心事は折神紫、そしてそれに取り憑く大荒魂のことで、その情報を持っている可奈美の話が聞きたくてしょうがありません。
人が何かに興味を強く惹かれたときに思わず身を乗り出すというのは、往々にして見られる現象です。
姫和の姿勢の変化も、その一種として捉えられるという風に私は考えています。

可奈美の方はどうでしょうか。
第2話までの可奈美は、むしろ姫和にぐいぐいと距離を詰めていく側でした。
神社での「私も一緒に逃げる」は言わずもがな、東京へ向かうトラックの中でもスペクトラム計を眺める姫和に「それってスペクトラム計?」や「もしかして姫和ちゃんのお母さんも刀使だったの?」と訊ね、どんどん心理的な距離を詰めていきます。
鹿島新當流剣術鴫の羽返しへの語りはむしろ姫和との距離は開いていたかもしれませんが、決定的に踏み込むのは「捕まるのが怖くて荒魂を放置するっていうなら、姫和ちゃんのやってることもおかしくなるよ!」でしょう。
そういえば第2話の副題は「二人の距離」でした。
(距離を詰めつつも、姫和の心の最も奥底にある復讐心の理由には踏み込まない辺りが可奈美のうまい(語弊がある)ところで、第2話も第2話で「距離」を題材にいろいろ当時から語られているところを見た話数ではあるのですが、ここではこれ以上は触れません。)
第3話で可奈美が上体を反らしたのは、もちろん、考え込む過程でただ楽な姿勢になっただけと見ることもできます。
実際、体育座りって意外とずっと姿勢を維持していると疲れる気がします。私だけかもしれませんが。
ですが、第2話までの可奈美と合わせて考えると、初めて姫和と距離を取った、と見ることができるのではないでしょうか。

ではなぜ可奈美は距離を取ったのか。
私は、可奈美が姫和に紫様と戦ってほしくないと思っている、その内心の表れだと思っています。
詳しく話そうとすると『Blu-ray&DVD 刀使ノ巫女 第2巻』のブックレットに収録されている『可奈美と姫和』にも触れたくなるのでここでは掘り下げませんが、第3話のこの後に続く会話にも、可奈美のその内心が表れています。
すなわち、先ほども触れたように、回復したら再び折神紫に挑むつもりだと答える姫和に対し、可奈美は「姫和ちゃんは勝てない。御当主様は、次元の違う強さだと思う」と言うわけです。
これは、淡々と可奈美の感じた事実を述べているだけとも言えるでしょう。
ただ可奈美は、第4話「覚悟の重さ」で語っている通り、御前試合で全く自分を見ていなかった姫和への怒りや、もっと踏み込んで言えば(これは私の解釈ですが)「姫和に折神紫だけじゃなくて自分を見て欲しい」という欲求を抱いてもいます。
なので私はこの可奈美の言葉を、姫和ちゃんは御当主様に勝てない、だから戦おうと思わないでほしい、という意味で捉えています。

話を戻すと、そういうわけで、可奈美は姫和に対して紫様の話をしたくありません。
紫様の話をすれば、姫和の意識はどんどんそちらに向いてしまうからです。
復讐に気を取られ、どんどん可奈美のことを見てくれなくなります。
それは可奈美にとって望ましくありません。

上体を反らして距離を取った可奈美の動作には、そんな心境が表れているのではないかと考えています。

刀使ノ巫女と『対話』

さて、第3話から1シーンの動作について切り出し、その動作が「言外に語る」ことについて考えてみました。
ですがここで大事なのは、むしろ「何を語らなかったか」にあると思っています。
正確に言うと、何を言葉にして相手に伝えなかったか、です。

私は、刀使ノ巫女の軸の一つに『対話』があると思っています。
互いを知らない者同士が、言葉や剣術といった形で対話し、理解を深めていく。
終盤で紫様もイチキシマヒメに「話をしよう」と言っていますね(第20話「最後の女神」)。
そして『対話』を読み解く上で重要になるのは、何を対話し、逆に何を対話しなかったか、です。

可奈美は姫和に紫様に戦いを挑んでほしくありません。
ですがそれを姫和に面と向かっては言いません。
それはなぜでしょうか。

対話しない者として即座に思い浮かぶのは夜見さんです。
彼女は言葉で自分のことを語らず、戦闘の基本戦術が御刀も用いない戦い方のため、剣術で語ることもしません。
ですが、だからこそ、その姿が如実に語る夜見さんの意志があります。
(余談ですが、第6話「人と穢れの狭間」にて夜見さんがその戦い方で語り、可奈美が受け取ったものが何だったのか、個人的にずっと気になっています。なぜ可奈美は夜見さんに組み敷かれて目を瞑ったのでしょうか。)

刀使ノ巫女は様々な要素が『対』になっている、というのは『Blu-ray&DVD 刀使ノ巫女 第4巻』のブックレットで髙橋さんが仰っていることでもあります(ちょっと拡大解釈かもしれませんが)。
第3話に限らず、それぞれのシーンでそれぞれのキャラクターが何を語り、何を語らなかったのか。
その結果として全体として何が表現されているのか。
そういったことに注目して刀使ノ巫女を考えてみるのも、また一つ面白い見方なのかもしれないと思います。