「刀使ノ巫女 名残花蝶」感想

 標語的に言うなら「親衛隊にとっての第24話」であり、そして「刀使ノ巫女の可能性」を感じさせる大変素晴らしいドラマCDでした。初回もめちゃくちゃ泣きましたし、この感想を書くために聞き直してまた泣きました。

親衛隊にとっての第24話

 先日の「とじらじ!生 # 01」でも「この話数がえーで!」の第2位に挙がった第24話。第23話で戦闘自体に決着をつけ、第24話を丸々使って母と娘の想いを描き切る構成に対して、放送当時から多くの賞賛や感謝の声が見られました。第24話は可奈美の母への未練や、姫和の呪いを断ち切る話数だったと言えるのではないかと思います。隠世での母との邂逅は、本当ならばもう二度と会うことのできない死者との邂逅です。その邂逅は、彼女たちが胸に抱えていた悩みや苦しみを解き放ち、救いを与えてくれました。

 元折神家親衛隊、現特別任務警備隊(特務警備隊)の真希と寿々花は、アニメ本編において仲間であった結芽と夜見を失います。真希と寿々花はアニメにおいて、ついぞ結芽と夜見の本心を知ることは出来ませんでした。二人の前に遺されるのは亡骸のみで、その本心が言葉として残されることはありませんでした。

 本ドラマCD「名残花蝶」は、そんな真希と寿々花に救いを与える話であったのだと思います。荒魂「ヨミ」(と呼ぶことにします)を介して皐月夜見の想いが伝えられます。ヨミが真希の嘘を見抜いたのが高津学長という単語を出したからだとするならば、それは真希がアニメ全24話で夜見のことを少しは理解できたことによる帰結とも捉えられます。そんな真希にヨミが語ったのは、紛れもない夜見の本心だったのでしょう。真希や寿々花、結芽(そして紫様)への羨望と感謝。その想いが語られたことは、きっと真希と寿々花にとって何よりも大切な救いであったのではないかと思います。

 特筆すべきは、彼女のその想いが剣を通じて語られたことです。アニメで夜見が御刀を振るって戦ったシーンはほとんどありません。彼女の武器は常にその血液から生み出した荒魂であり、特に後半クールでの真希と寿々花との戦いでは、防御のために御刀を使うことはあっても、なるべく剣で戦うことは避けているように見えました。おそらく夜見は、自分自身が剣の実力で二人に遠く及ばないことを強く自覚していたのだと思います。勝つために夜見が取れる手段は、剣での立ち合いをなるべく避けることでした。

 そんな中でヨミは真希に対して剣での立ち合いを申し込みました。それは第20話の再来であり、やり直しでもあります。刀使ノ巫女において剣はコミュニケーションの大切なツールです。夜見は剣を合わせないことで相互理解を拒みました。ヨミは真希を知るために立ち合いを申し込みました。敵わないことは分かっていてそれでもなお、夜見の望みを一つ果たすために。きっと真希と打ち合った経験は、ヨミあるいは夜見にとっても救いとなったことでしょう。

 真希や寿々花、夜見に対して、現世の理屈では起こりえない邂逅を果たしてあげることで、真希と寿々花にとって大きな区切りとなる、とても切なくて優しいお話だったように思います。なんといっても、二人は笑って消えゆく夜見(ヨミ)を看取ることができたのですから。

刀使ノ巫女の可能性

このドラマCDについて、事前に髙橋さんが、本編のエピローグかつ次章のプロローグである感じを意識したと仰っていました。その言葉の通り、このドラマCDでは刀使ノ巫女においてまだ掘り下げることの可能な様々な要素が提示されたように思います。そもそもがこのドラマCD自体、そういった視点から新しいエピソードが作れるのかと驚きましたし、姫和と親衛隊のわだかまりについてはアニメ内では実は未解決だったことなど、気付かされることがたくさんあったのですが。

まずは何といっても、主題であった夜見の荒魂について。真希との戦いで消滅したと思いきや、雪那さんの前に姿を現し(?)ます。雪那さんは現在静岡特祭病院所属とのことで地理的にも近いですし、真希と戦ったものと同一個体と見ることもできなくはないですし、違う個体だと見ることもできます。そうでなくとも、夜見は当然山狩りのときだけではなくアニメ後半クールでも何度も荒魂を放っているのですから、生き残りが他にもいる可能性は十分にあります。ドラマCD内でも語られているように、一年以上も存在している夜見の荒魂のことが広く知られれば各種研究機関の関心を集めますし、事態は複雑化していくことでしょう。雪那さんがどう動くかも予測できませんし、この切り口から新しいお話をどんどん作っていくことができそうです。

次に姫和について。これもドラマCD内で語られていますが、彼女の存在は下手すると夜見の荒魂以上に大変な火種となりえます。イチキシマヒメの記憶は隠世技術の根幹をなすものであり、技術研究的な価値が非常に高いばかりか、刀剣類管理局に対抗する組織――つまり、ちょうど琉球剣風録でもフォーカスされたDARPAから見れば、管理局の非道を暴く証拠足りうるわけですから。紫様が何か対策を講じるらしいとはいえ、ここを起点にかなりのストーリーが作れそうではあります。

(余談ですが、この姫和の持つイチキシマヒメの記憶は、おそらくは年齢が上がって刀使としての能力が消えた後でも残り続けるのではないでしょうか。そうすると姫和はいつになっても平穏な日々に戻ることはできないということになり、実はものすごく辛い未来が待っているのではないかと考えてしまいます。進化系Colorsの「運命はどうして どうして私なんか構うの」を思い出しました。)

アニメ本編が大団円という空気で終わっていたので、てっきり問題はもう全て片付いて、後は明るい未来が待っているだけ!ぐらいの心持ちでいたのですが、意外とそうでもないのだなぁと思い知らされた感覚です。ちょうど、第12話が終わってこれから何やるんだろう?と思っていたのが、第13話でなるほどと納得させられたのと同じような感じですね。

そんな状況で明るい希望たりうるのが、これまたドラマCD内で語られていますが、可奈美です。6巻ブックレットSSでも出てきた「心眼」の要素も補足され、可奈美の可能性がますます輝くエピソードになりました。この先にどんな辛いことが待ち受けていても、この二人が一緒なら大丈夫、そう思わせてくれる前向きな力が可奈美にはあるように思います。

 

以上、小さな感想は他にもいくつかありますが、親衛隊のエピローグや、可奈美や姫和のお話の整理、設定面の解説に加えて、刀使ノ巫女の未来への可能性を感じさせるエピソードと、本当に素晴らしいドラマCDでした。刀使ノ巫女のこの先に何が待っているのか、楽しみにしていたいと思います。